BELLE Pamphlet for NGTHEP

BELLE実験の紹介


1,目的

BELLE実験はBファクトリと呼ばれる加速器を使って、年間1000万個〜 1億個のB中間子を発生させ、その崩壊を観測する素粒子実験です。

現在の物理学の謎の一つに

この宇宙には物質(陽子と電子)ばかりが見つかり、反物質(反陽子と陽電子) はほとんど観測されていない。なぜ宇宙は均整がとれていないのだろうか?
という問題があります。

この問題を解くための鍵のひとつが「CP非保存」です。 CP非保存とは、粒子と反粒子の間の(厳密には、Charge=電荷 と P arity=空間の同時反転に対する)対称性・同等性が破れていることです。 Parity変換とは鏡をのぞいた時の変換に例えることができます。 鏡をのぞいてみましょう。自分と鏡の中の自分との違いは、ホクロのように 対称でない特徴です。鏡の外の世界も、実は対称性が破れているおかげで安定して 存在できるのです。物質世界の根底にある対称性の破れが、昨年以来、国際的に 科学の大きな話題になっています。 C変換とは電荷を反対にした変換です。皆さんご存知の電子の反物質は陽電子 と呼ばれます。電子はマイナスの電気を持ちますが、陽電子は他の性質は全く 同じでもプラスの電気を持っています。陽電子などの反物質は生活に関係がな いように思われるかもしれませんが、医療現場では陽電子放射断層撮影法 (PET) として体の精密診断や脳研究に使われています。 陽子や中性子の反物質、反陽子や反中性子も存在しています。反陽子と反中性子で できた原子核を回る陽電子の集まりから反原子をつくると、反世界も考えられるの です。でも、反世界が存在すると世界とは外見上区別がつかないだけではなく、 一緒になると消えてしまいます。反世界がこの世にあると物質世界の安定は 保証できません。 陽電子や反陽子などは加速器の実験では、いくつも発見されますが、幸いなことに 宇宙からやって来る粒子を調べてみると反物質が大量に存在する証拠はまだ見つ かっていません。 CP 非保存の現象自身は1960年代に 中性K中間子の崩壊を通じて発見さ れています。

その原因の一つと考えられているものに「クォークの混合」があります。 クオークはこれまでに6種類発見されていますが、これらのクオークは 互いに混じり合いながら反応することがわかっています。 6種類のクオークとその混合の様式に簡単なルールを付け加えるだけで、CP 非保存が説明できるという考え方が1970年代に提唱されました。 (提唱者の名から、小林・益川理論と呼ばれています)。

bクオークは 6種類のクオークのなかでも 2番めに重く、いろいろなクオー クと混合しながら反応をおこします。B中間子はこの bクオークからできて おり、クオーク混合の研究に最適な材料であることがわかっています。 そして、この混合を注意深く調べることでCP非保に関する新たな知見を得る ことができます。

2,KEKB加速器

B中間子生成のための加速器(KEKB)は、KEKで1994年4月に建設 が開始されました。このような加速器は、B中間子を大量生産する施設なので Bファクトリ(Bの工場)と呼ばれます。

高エネルギー加速器研究機構
図1:高エネルギー加速器研究機構(KEK)全景

Bファクトリは、電子・陽電子衝突型の加速器です。トリスタンは等しいエネ ルギーの電子と陽電子の衝突をおこなわせる、対称エネルギーの1リング型衝 突型加速器でした。これに対し、Bファクトリは、電子と陽電子のエネルギー が異なる非対称エネルギー、2リング型の衝突型加速器となります。 電子と陽電子は、お互いに反粒子であり、質量が等しく、反対の電荷を持って います。エネルギーの等しい電子と陽電子は加速器の中で、同一の軌道を反対 方向に周回するので、等しいエネルギーの電子と陽電子を蓄積するためには、 1つのリングを用意すればよいことになります。しかし、Bファクトリのよう な非対称エネルギー型の衝突型加速器では、電子と陽電子は異なったリング中 に蓄積されなければならず、2リングが必要となります。 実際には、周長3kmのトンネルの中に電子を蓄積する8GeVのリングと 陽電子を蓄積する3.5GeVのリングの2つのリングを並べて設置します。 トリスタンのトンネルは十分に大きいので、2つのリング を左右に並べて設置することができます。電子と陽電子はそれぞれのリングの 中を反対方向に周ります。2つのリングは2ヶ所で交差しますが、そのうち の筑波実験室中の1ヶ所、すなわち衝突点で、電子と陽電子が衝突することに なります。他の交差点(富士実験室中)では、リングを上下にすれ違わせ衝突 を起こさせないようにします。また、衝突点を囲んでBELLE測定器が設置 されます。8GeVと3.5GeVというエネルギーは、B中間子の一対をちょ うどつくりだすエネルギーになっています。

KEKB
図3:Bファクトリの構成。電子および陽電子は線形加速器から直接にBファ クトリのリングに入射されます。2つのリングは2ヶ所で交差しますが、その うちの1ヶ所で電子と陽電子は衝突し、他の交差点では、リングは上下にすれ ちがい衝突は起きません。
KEKBでは電子と陽電子の衝突反応が起こる頻度を高めることがとても重要です。 この反応が起こる頻度を与える量がルミノシティと素粒子反応の断面積と呼ばれる量 との積で、断面積は素粒子反応の起こりやすさを表す量ですが、これは自然法則だけ で決まっていて人間の変えることのできない量です。KEKBを用いた実験では、 非常に稀にしか起こらない(つまり断面積の小さな)素粒子反応を調べることが 眼目です。ルミノシティは時間当りの量で、良く速度に例えられます。距離は 速度×時間で表されますが、同じ意味でルミノシティにおける「距離」に相当する もの積分ルミノシティと定義します。積分ルミノシティに素粒子反応の 断面積を掛けると、その反応の起こった数が計算されます。

「Bファクトリー」はB中間子をできるだけ大量に生成するのが使命です。 B中間子がたくさ んできれば、世界が注目しているBelle実験の結果はより確実 なものとなります。

2003年5月KEKBのルミノシティは設計値に到達しました。その後もこの値はじわじわ と増え続け、現在の記録は設計値より2割高くなっています。KEKBは世界記録を着 実に更新し続けています。積分ルミノシティも世界最高記録を更新中で図のように 250/fbというデータ量が2004年7月までに蓄積される予定です。

2004/05/28現在
積分ルミノシティー

3,BELLE検出器

崩壊の観測のために用いる検出器は BELLE(ベル:bクォークの別名 「Beauty = 美」の意のフランス語)と名付けられました。B中間子の 研究のためには崩壊後に出てくる素粒子をあまさず測定し、その情報を最大限 に生かさなければなりません。そのためBELLE検出器は、異なった機能を 持つ多くの検出器を持ち、生成粒子の非常に精密な位置測定や粒子識別を実現 しています。
1. シリコンバーテックス検出器 B中間子の崩壊地点を数10ミクロンの精度で測る
2. 中央ドリフトチェンバー 粒子の運動量と発生方向を精密に測る
3. シリカエアロジェルチェレンコフカウンター 粒子識別装置 チェレンコフ光を測って粒子の種類を区別する
4. 飛行時間カウンター 粒子識別装置 飛行時間差を測って粒子の種類を区別する
5. 電磁カロリメーター 電子やガンマ線を低いエネルギーまで精密に測る
6. ミュー粒子中性K中間子検出器 ミューオンと中性K中間子を検出する
7. 超伝導ソレノイド電磁石 広範囲に一様な高磁場(1.5テスラ)を発生する
8. 高速トリガーシステム 非常に頻度の高い事象から興味あるものを高速選択する
9. 大量高速データ収集システム 毎秒10メガバイト、年に数10テラバイトのデータを処理する

Belle detector

BELLE検出器2

4、新潟Belleグループ

Belle検出器は、電子・陽電子衝突直後にできる各種の素粒子を捕まえるための 巨大な観測装置で、多様な検出器の組み合わせによってできています (Belle検出器図)。 その検出器のなかで最も衝突点近くに位置するのが、シリコンバーテックス検出器 (SVD)です。 新潟Belleグループでは国内はもちろん海外の他大学と協力をしてこのSVDの研究開発 を行なっています。2003年の夏に大幅に改良された新型シリコンバーテックス検出器 (SVD2)がBelle検出器に導入されました。これまでの検出器(SVD1)と比べると、 新型検出器(SVD2)では、より広範囲の測定を可能とするために、そのカバーする 領域が広がりました。これにより、今まで取り逃がしていた粒子も観測できるよう になります。この改良作業(アップグレード)で、実験のポイントであるB中間子の崩壊 位置測定の精度が、20%ほど改善し、また、これまでより多くのB中間子の崩壊を効率 良くとらえることができると期待されています。
SVD2とその仲間
新型シリコン崩壊点検出器SVD2とBelle SVDグループ

5,Super KEKB (将来計画)

現在(2007年1月),世界最高のルミノシティを持つKEKB加速器およびBelle検出器ですが, ルミノシティを50〜100倍にする計画があります. この計画をSuper KEKB,Super Belleと呼んでいます. Super KEKB,Super Belleでは測定精度が確実に上がります. 今までは測定精度が不十分なために観測できなかった現象が発見されると期待されています.
Niigata Univ. HEP Lab. / H.Kamata(updated by Y.Onuki and K.Sakai)