SuperKamiokande実験
スーパーカミオカンデ検出器は岐阜県神岡町の神岡鉱山の地下1000メートルに作られた、直径39、3メートル、高さ41、4メートルの巨大な円筒形の水槽である。この中に50000トンの純粋を貯え、水槽内壁の全面に取り付けられた約11200本の光電子増倍管が、荷電粒子が物質中を(物質中の)光速以上の速度で通過する際に放射されるチェレンコフ光を捉える。また膨大な物質量を持つため、一部のニュートリノは検出器内部で相互作用を起こし、終状態で荷電レプトンが生成される。従ってスーパーカミオカンデ検出器は非常に高性能のニュートリノ検出器でもある。

実験の目的は幾つかあって、

  1. 陽子崩壊の探索
  2. 大気ニュートリノ
  3. 太陽ニュートリノ
  4. 上向きミューオン
  5. 超新星ニュートリノ
等が主なものであり、この他にもニュートリノ点源の探索やダークマター候補の検証、モノポール探索といった、素粒子物理から宇宙線・宇宙物理までを範疇とした、実に幅広い研究が可能である。
1987年にマゼラン雲で起こった超新星爆発から飛来したニュートリノをカミオカンデ検出器が捉え、ニュートリノ天文学の分野を切り開いた事は記憶に新しく、銀河系内での超新星爆発が待たれる。

大気ニュートリノの観測では、宇宙線のカスケードシャワーで発生したニュートリノを捉える。シャワーの発達過程は詳細に調べられており、発生するミューニュートリノの電子ニュートリノに対する比率は正確に2:1である。しかしカミオカンデ実験の観測結果はミューニュートリノの欠損を報告している。この比率の、更にモンテカルロシミュレーション(理論期待値)に対する観測値の比を取ると約0.60であった。

また太陽ニュートリノの観測においても、同様な理論期待値からの逸脱が示された。カミオカンデでは、検出可能な閾値7MeVから〜16MeVまでの太陽からの電子ニュートリノを観測したが、結果は標準太陽模型の50%程度でしかなかった。標準太陽模型の不定性を考慮しても、この結果を説明するためには、今の所ニュートリノ振動を導入せざるを得ない。

もしニュートリノに有限な質量があれば、世代間で振動が起こるので、検出対象のニュートリノが別のニュートリノに遷移すれば検出されない可能性が出てくる。 カミオカンデ実験の結果に見られた、大気ニュートリノや太陽ニュートリノの観測値からの大きなずれは、ニュートリノ振動を示唆する結果として非常に興味深い。スーパーカミオカンデ実験において、ニュートリノ振動の有無が高い統計精度で検証されれば、我々は標準模型から大統一理論へと至る足掛かりを得ることになる。

上向きミューオン事象の研究では、地球の反対側でできた大気ニュートリノが検出器近傍の岩盤と相互作用してできたミューオンを観測する。下向きのミューオンは宇宙線のバックグラウンドに埋もれてしまうため、上向きという制限が課せられる。通常の大気ニュートリノ事象が1GeV付近のエネルギーのニュートリノを見ているのに対して、上向きミューオンの解析では、100GeV付近の高エネルギー大気ニュートリノ事象を見ている。高いエネルギー領域におけるニュートリノ振動の検証として重要な研究である。

新潟大学高エネルギー物理学研究室は、太陽ニュートリノの解析・上向きミューオンの解析、及び検出器較正のグループに属しており、頻繁に宇宙線研神岡観測所と大学を往復しながらの活発な研究活動を行っている。またロングベースラインニュートリノ振動実験と合わせて、ニュートリノ振動の検証は研究室の柱たるテーマの1つである。

また、大統一理論によると、陽子は不滅でなく或る一定の寿命を持っており、崩壊することが予言される。但しその寿命が10の30乗年以上と極めて長いために、崩壊を検出するためには、少なくとも1000トン以上という膨大な量の物質を集めなくてはならない。しかしカミオカンデ実験で崩壊は観測されず、比較的短い寿命を予言する、単純な大統一理論のモデルを排除した。陽子崩壊の有無、即ち大統一理論のモデルの検証がスーパーカミオカンデ検出器において為されることが期待される。

実験は1996年の4月1日に運転を開始し、365日24時間体制で、現在も順調にデータ収集が行なわれている。実験には日本とアメリカから約100人の研究者が参加し、昼夜問わず精力的な研究が続いている。


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